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仁木 智之/Tomoyuki Nikki

Artists’ Profile

1968年神奈川県生まれ。1998年英国ロンドン大学ゴールドスミス・カレッジ大学院修了。初期から現在まで、継続して体感型の作品を発表。鑑賞者にとって、仁木の作品は、死者ではなく、生者のための「棺桶」として機能する。美術作品として鑑賞されることと、棺桶として体感されることの相反する価値を同居させ、私たちに芸術の基準を投げかける。死を隣人として従えるような、身体感覚に新たなリアリティを出現させるその装置は、勇気を持って棺桶の中で体感した者のみの共通語として、対話が生まれるように設計されている。

Born in Kanagawa Pref. in 1968
MA in Goldsmiths, University of London
He has presented sensory art works continuously since his initial stages. To the audience, his works function as “coffins” for living people, not for the dead. Contradictory meanings of being appreciated as art works and experienced as coffins coexist in his works then we are faced with his question about the standard of art. His works are like devices to produce a new reality to the bodies’ feelings; i.e. perceiving death laying as neighbors are designed to bear a common language just among people who are brave enough to experience it.
https://www.facebook.com/tomonikkijp

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“ Still Living (まだ生きている)” 2004

本人コメント
今回、私は流線形型の造形物に人が入る事が可能な作品を出品する。その形状から人は、種子や繭を連想するかも知れない。そもそもこれらは成長や再生といった、物事が発生するイメージを誘発させる要素を持っている。その本作の構想を練っている最中に今回の展覧会の会場名や、その題名が決定して行く過程の中で、ふと私はある施設の事を思い出していた。

その施設とはノルウェーの北極圏に近いスヴァールバル諸島にある島に建てられた、地球上の種子を冷凍保存する世界最大の施設である、「スヴァールバル世界種子貯蔵庫」(Svalbard Global Seed Vault)についてであった。2008年に操業を開始したこの施設は、核シェルターと同様の堅牢さと既に50万種以上の保存種子を有し、将来起こりうる深刻な気候変動や自然災害、戦争等に備えて農作物種の絶滅を防ぐと共に、世界各地での地域的絶滅があった際には栽培再開の機会を提供する事を目的としている。ノルウェー政府はこれを「種子の箱舟計画」と称し、ビル・ゲイツを始めとした巨大資本家や企業、100ヵ国以上の国々の支援を受けて具現化したという。

興味深いことに、種子銀行の最先端を行くこの施設は、本来ならばおおよそ不釣合いな秘境とも呼べる北極圏の地にあり、有事の際にはこの施設自体が、まさに人類救済の巨大な種床となり得ることである。

この展覧会の企画者である清岡正彦氏から頂いた企画書の中で、「今、ここに集うことは、21世紀の洞窟芸術を発見し、心のなかに眠っていた至福の深さを、全身全霊で甦らせ、芸術という秘境の場所を回復させることである。忘却の中に沈殿した芸術の根源性は、社会漬けになったアート制度から離れた、マージナルな場所にこそ光輝くものである。」と記されている。又、先の企画書の文中に「(アートの)有益なる社会資源化」というものがある。その言葉の裏側の一つを考えると、昨今の不況を背景に現在の美術業界の状況は、経済的な価値を見出し易い作品(若しくは展覧会)が意味のある事と賞される傾向が強い。対照的にそれらとは異なる次元の表現を存分に堪能できる場は極めて少なくなって来ている様に思える。

南橋本という、首都圏からは利便性があるとは云いがたい土地、「洞窟現代」というパラドキシカルめいた会場名、「秘境を求めて」という展覧会名は、そのスケールは異なれど冒頭に記した「世界種子貯蔵庫」に通じる感覚に類似している様に思う。流行的な事象から距離を置き、過度な営利性とも(恐らく)無縁で、倉庫という無骨な建物の中において、(私自身も含めて)作家は厳しくも、充実した規模の表現を追及出来るであろう。それが経済的な価値やそれに伴う様々な制約の有無を注視しがちな故に、停滞気味な美術業界の現状よりも確実に新鮮な種を保全し、やがてはその種床として機能して行く可能性を秘めているのではないだろうか。「世界種子貯蔵庫」が「種子の箱舟」的な役割を目指す様に、「洞窟現代」は「文化のアルカディア(理想郷)」を目指して行くだろう。今、私達はこの秘境の地に降り立ち、種を植え始めようとしているのだ。

参考文献 (敬称略)
秘境を求めて:清岡正彦
Svalbard Global Seed Vault スヴァールバル世界種子貯蔵庫:株式会社日本アグリテクノロジーズ
食料安保の切り札、世界種子貯蔵庫:ナショナルジオグラフィック